Diary:the Requiem
八月

一日

くろえは、帰ってこない。

独逸に行ってからは手紙もないし、電信もない。

あの日、五月十二日。

この日記帳を、くろえから渡された。

分厚いのに、ほんとに最初の数ページしか使われていない日記帳。

今日までどうしても開くことができなくて、日記を渡されたことをリサに打ち明けて「マリアのバカ! 早く見てあげないさい!」とまで言われてようやく開くことができた。

最後の数日のページの間。そこから零れ落ちたのは水晶の欠片。

泣き出しそうになったけども、泣いてしまっては文字が読めない。必死でこらえて、一文字一文字を追った。

思わず、首にさげた水晶の首飾りを握り締めていた。

これを書いている今も、手のひらに食い込んだその痛みが残っている。

この痛みが、くろえの痛み。

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