クレマチス
『あの方はきっと先生を愛しすぎたのだわ』
『…?』
『だから…』
――大好きな先生を取られたから殺した。
色恋沙汰の泥沼の末の犯行。
そういうことなのか。
塚原は少し疑問に思った。
『後悔とか、反省はしているのか』
ええ、とキヨは細い指を自分の唇に押し当てる。汗ばんだほつれ毛が、妙にキラキラと目に付いた。
よく見ると、キヨの首にはうっすらと新しい傷があった。
『先生が…居なくなってしまったことも…』
確かに事件後、村野忠基は姿を消している。

――何かがおかしい。

第一、女の力で、それもこんな線の細いれ込んだ。
『おい!緑山っ!』

塚原の幼いころ、隣に住んでいた娘に狐が憑いた事があった。
近所の拝み屋が三日三晩ダラニを唱えてようやく娘は正気を取り戻した。
その時の娘の様子によく似ているなと、塚原はぼんやりと考えていた。
塚原がハッと我に返るとキヨはガタガタと部屋の隅で震えていた。
キヨの夜会巻きが解けて、長い髪が体の線に纏わりつく。
誰か毛布を、と部屋の外に声を投げ、塚原は取り敢えず着ていたジャケットをキヨにかけてやった。
『あ、ああ…あたしはなんて事を…ほ…本当の事を話ますよぅ…』

< 2 / 11 >

この作品をシェア

pagetop