クレマチス
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えぇ、歌子サンを殺したのは、先生なのです。
こう、包丁で首を…ざくりと、あぁ…恐ろしい…先生…どうしてあんなこと…。
障子を開けたのです、そうしたら…その…歌子サンが先生の上にのっかって…首を切られて居りました。
あたしは怖くて端っこでうずくまって居りました…。
先生はお嫌いだったんです…、その…女性とは…不能でありました…。
だからあたし達には決してそんな目を御向けにならなかったし、余所の女性にもそうでした…。
なのに歌子サンったら…。
ある日、先生があたし達を連れて弐念会と云う画壇の集まりへ行かれた時でした。それはもう三重画伯や円藤画伯のいらっしゃるたいへんな集まりでした。
歌子サンは画伯お付きのモデルさん達を差し置いて、今度の展覧会の三重画伯の絵のモデルになるお約束を軽く引き受けてしまって…いえ、其処までならば私達も目を瞑っていられたのですが…その画伯に…皆様の前で…接吻を、してしまったのです。其れには先生もお怒りになって私達を置いて先に帰って仕舞われました…。すると歌子さんはぷいと三重画伯にくっついて帰ってしまったのです…。
そんな奔放な方だったのです。歌子サンは…。