クレマチス
そして歌子サンと三重画伯が関係を持ったと云う噂が流れるのは、そう時間のかかることでは有りませんでした…。

爛れた関係に…成ってしまったというのです…。

先生はそれは悲しみました。ご自分のお身体の事も御座いましたから…お巡りさんは先生の絵を御覧になった事がございますかしら?先生は『女』というよりも『少女』を描きたかったのだと思います。処女性を慈しむように先生は絵をお描きになりました。
ですからそんな奔放な『女』である歌子さんをいつしか疎ましくお思いになっていたのかもしれません。

そして、あの夜で、ございます。
歌子さんが…先生を襲ったのです。
引っ掻いて、押し倒して…接吻までして…。
先生は耐えられなかったのでしょう。自分のモデルが少女ではなく『女』になってしまったことが…。

そうして最初のお話で御座いますよ…。

私は先生と一緒に歌子さんをっ……。

そこから先はお巡りさんの言うとおりで御座います…。

――――――――

そう唇を震わせると、緑山キヨはパタリと気を失った。
塚原はキヨを医務室へ運ばせると、そっと瞳を窓の外へやった。

ちょうど月が太陽にうすぼんやりと消されかけている、早朝の空だった。
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