クレマチス
取り調べから数日後。緑山キヨは証拠不十分で釈放された。
その次の日だった。
城川歌子が目撃されたのは。
三重画伯の屋敷から出る歌子を見た者が居ると云うのだ。
見た者が云うには歌子は白い大きな帽子をかぶり、白いワンピースを着た彼女の姿は、和装でしとやかなキヨとは対照的な快活で健康的な娘だったそうだ。
――やはりおかしい。
塚原はこめかみをぐっと抑えた。
死人が生き返り、生人が姿を消す。
全く気味が悪い。
『刑事さん…ですか?』
声をかけられてふと振り向けば、初老の男が立っていた。
『えっ…えぇ。』
本当は警部だがという言葉を飲み込んで塚原は答えた。
男は円藤と名乗り、すぐそこですので、と塚原を自分の庵に案内した。
『刑事さん、村野忠基の事をお知りになりたいようだ』
円藤は、冷たい茶を差し出してそう言った。
どうしてそれを、と塚原は尋ねた。
そういうお顔をしていらっしゃるから、と少し笑いながらその背の低い男は答えた。
円藤が村野の絵描き仲間だったことを塚原はようやく思い出した。
『村野はね、幸せなんだか不幸なんだか分からない男ですよ。なんたって自分から愛することはしないのに余所から愛されすぎた』
その次の日だった。
城川歌子が目撃されたのは。
三重画伯の屋敷から出る歌子を見た者が居ると云うのだ。
見た者が云うには歌子は白い大きな帽子をかぶり、白いワンピースを着た彼女の姿は、和装でしとやかなキヨとは対照的な快活で健康的な娘だったそうだ。
――やはりおかしい。
塚原はこめかみをぐっと抑えた。
死人が生き返り、生人が姿を消す。
全く気味が悪い。
『刑事さん…ですか?』
声をかけられてふと振り向けば、初老の男が立っていた。
『えっ…えぇ。』
本当は警部だがという言葉を飲み込んで塚原は答えた。
男は円藤と名乗り、すぐそこですので、と塚原を自分の庵に案内した。
『刑事さん、村野忠基の事をお知りになりたいようだ』
円藤は、冷たい茶を差し出してそう言った。
どうしてそれを、と塚原は尋ねた。
そういうお顔をしていらっしゃるから、と少し笑いながらその背の低い男は答えた。
円藤が村野の絵描き仲間だったことを塚原はようやく思い出した。
『村野はね、幸せなんだか不幸なんだか分からない男ですよ。なんたって自分から愛することはしないのに余所から愛されすぎた』