ｸﾚﾏﾁｽ
『城川歌子に、ですか』
『おや、御存知ですか。まぁ事件になって新聞にも乗ったんだ。刑事さんが知らないわけがないか』
自嘲するように円藤は呟いた。
『もう一人のモデルの娘、緑山キヨですか。あれは本当に村野の娘のようだった、ほとんど外に出ずに絵のモデルに専念し、その上家の事やらもこなしていましたから』
『ほとんど外に出ない？あぁ、では前回の弐念会だけは特別に』
『いや、弐念会にも出ていなかったなぁ、歌子だけが来ておりましたよ』

――また歯車が噛み合わぬ。

塚原は困り果てた。

円藤の屋敷を出たのは、夕方をすぎて日が随分陰ってからだった。
長い坂を下ってすぐ、塚原は、城川歌子を、見た。

『城川…うたッ』

歌子の白い指先が塚原の唇を塞ぐ。

『教えて欲しいのでしょう？』

――ホントノコト。

歌子はショートカットのモダンな髪を揺らして、虚ろな眼差しを塚原に向けた。

――これがデジャブというのか。否。

塚原は唾を飲み込んだ。
歌子は微笑んで帽子を取り、右手で髪飾りを解いた。
『き…君は…ッ！』
体に纏わりつく長い黒髪が落ちる。

緑山キヨ。

それは夜会巻きが解けた時のキヨにそっくりだった。

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