たんぽぽ
一章
 二〇〇六年。一月二十九日から一月三十日に日付が変わるちょうどそのときに机の上の僕の携帯電話が小刻みに震えた。電話かと思ったがすぐにそれは動かなくなった。きっとメールが届いたのだろう。僕は携帯電話を手に取り、受信ボックスを開く。メールをくれた相手のメールアドレスは僕の携帯電話の電話帳には登録されていないものだった。しかし、そのメールアドレスには見覚えがあり、僕にはそれが誰であるかすぐにわかった。

「誕生日おめでと☆」

 メールの内容は誕生日メールにしては味気なく、その一言が書かれているだけだった。僕は驚きながらも内心期待していたようだ。胸の鼓動が大きくなっていく。過去のことが記憶の中で薄まり、顔が微笑んでくるのがわかる。もちろん忘れることなんかできない。 そんなことはずっと前から気づいていた。

「ありがと♪久しぶりだな☆元気にしてんのか?」

 僕は約九ヶ月前にメールをしたときと同じメールを送った。

 きっと去年みたいに返事は当分来ない。わかっている。それ以上は期待したらダメだ。そう自分に言い聞かす。

 さっきまでもうすぐ実施される大学の後期試験のため勉強していたのだが手を止め、僕はジャケットを羽織り、マフラーをまいて外に出た。

 今年の京都は本当に寒く、外は一面雪で白くなっていた。京都の冬は厳しい寒さが続く。京都市内の中でも北のほうに位置する僕の部屋の前の道は人も車も通っておらず、静かな寒い夜だった。この日も気温は真冬を感じさせ、やわらかな雪がゆっくりと地面に落ちている。白い息を吐きながら雪の降ってくる空を見上げてみた。寒さで顔が痛い。目に冷たいものがあたる。

 そのとき僕の携帯電話が震える。

 僕はハッとして急いでそれを取り出す。

「なんだ…。まぁわかってたけどさ…」

 そこには大学の友達からの誕生日を祝ってくれるメールがあった。

 僕は軽くため息をつき、苦笑いをする。すると手に持っている携帯電話がもう一度震えた。次は誰かな、とメールを見る。

「元気☆あんたは?」
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