たんぽぽ
「昨日はいきなりごめんな」

 僕は春華の目をまともに見ることができない。

「ほんとにいきなりだったし、びっくりした」

 春華は少し笑っている。いつもの春華だった。

「ほんとにごめん」

 僕はなんだか気まずかった。

「ううん。大丈夫。嬉しかった。でもわたし、お母さんが看護婦やってて、緊急の電話がいつかかってくるかわからないから、あんまり電話とかはできないけどそれでもいいなら…」

 春華の顔は赤くなっていた。

「エッ、うん、全然大丈夫。じゃあ、よろしくお願いします」

「ほんとに電話、全然できないよ…。それでもいいの…?」

「うん。よろしくお願いします!」

 僕は春華の目を見て少し照れながら言った。

 こうして僕と春華はこんな感じで付き合い始めた。ちょうど僕の十五歳の誕生日から数日過ぎた二月の始めだった。

 しばらくの間は付き合うといっても特に何をするわけでもなかった。三学期になって、席替えがあり、僕は教室の左の後ろの方、春華は右の前の方になって、二学期のように授業中に話すことはなくなった。

 そして、僕は付き合い始めてから、春華をよりいっそう意識してしまい、人前ではまともに話すことすらできなくなってしまっていた。会話らしい会話は、たまに春華から電話がかかってきたときに話すくらいで、学校での会話は少なくなった。

 デートらしいデートもしなかった。思春期ということもあり、周りの目が恥ずかしかった。
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