たんぽぽ
 しかし、ある日をきっかけに僕達の距離は急速に近くなった。

 それは僕が学校を風邪で休んだ土曜日だった。

 お昼過ぎに突然僕の携帯電話が鳴り響く。僕は眠い目を開けて携帯電話の液晶画面を見る。「公衆電話」と表示されている。

 誰だろう。

 僕はベッドに寝たままおもむろに通話ボタンを押し、携帯電話を耳にあてる。

「もしもし」

 寝起きのせいもあってうまく声がでなかった。

『あっ高嶺?学校サボったらダメでしょ』

 向こうから聞こえたのは嬉しそうな春華の声だった。急に目が覚めた。

「サボってないよ。ほんとに風邪引いたんだよ。もしかして心配してくれたの?」

 僕は突然の電話に嬉しくなった。

『うん』

 春華の声が急にかわいくなる。

「ありがと。俺はまぁ大丈夫。風邪っていっても学校行くのだるかったし休んだだけだし。サボったみたいなもん」

 僕は笑いながら言うと、春華もクスクス笑って答える。

『やっぱりー。悪い子だね。ダメだよ、ちゃんと学校こなきゃ』

「あっはい。ごめんなさい。今井もう学校終わったの?」


『うん。今、終わった。今日ねー、門倉に高嶺の家の場所聞いたんだ。さて、問題です。これから今井春華はどこに向かうでしょう?』

 春華は無邪気に言う。少し照れているのがわかった。

「もしかして俺んち来てくれるの?」

『んー、どうしよっかな。来てほしい?』

 意地悪な顔をして言っている春華の顔が想像できた。

「エッ…、来てほしいです」

 僕は正直に答えた。

『じゃあ、仕方ない。雄太君のお見舞いに行ってあげましょう』

 春華は楽しそうだ。

「ちゃんと来れる?わかりにくいところだし、近くまで迎えに行こうか?」

『大丈夫。ちゃんと聞いたし、病人は大人しく寝ときなさい』

「あっはい」

『じゃあ、また後で』

「うん。気をつけておいでよ。」

『大丈夫。じゃあね』

「うん」

 電話を切った後、さっきまでの電話を振り返る。
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