たんぽぽ
周りからクスクスと笑い声が聞こえる。顔が熱くなるのがすぐにわかった。
「この文がわからないくらい頭がいいなら、もう少し授業を真面目に聞いてもらわないとな。わかったか?」
僕が「すみません…」と言い終わらない間に先生は何事もなかったかのようにさっきの文を説明し、口語訳を言い始めた。
「…、ということからこの文は『これを射損じることがあるならば、弓を折り自害して…。」
僕は顔の熱いものが引いていくと同時に段々と身勝手な怒りを感じ始めた。僕が古典ができないことは先生も知っているはずなのに…。
「はい」
僕の思考を遮り、右の方から声が聞こえた。隣の女子が僕の消しゴムを差し伸べている。あぁそういえば消しゴム落としたっけ。先生のせいですっかり忘れていた。
「ありがとう」
僕は彼女の目を見ながらそうつぶやき、消しゴムを受け取った。
「どういたしまして」
彼女はにこりと笑い、静かにそう言った。その爽やかな笑顔にさっきまでの怒りはかき消された。少しの間、僕は幸福な気持ちに包まれた。これが春華との初めての会話である。
今まで話したことがなかったが、春華はどちらかというと話しかけづらい女子の一人だった。友達の前では笑顔を絶やすことはなかったが、他の人に対しては愛想がいいとは言えなかった。しかし、僕に向けられたその笑顔によってそんな印象は一瞬にして吹き飛ばされた。僕はその笑顔にやさしさと親しみを感じていた。
「この文がわからないくらい頭がいいなら、もう少し授業を真面目に聞いてもらわないとな。わかったか?」
僕が「すみません…」と言い終わらない間に先生は何事もなかったかのようにさっきの文を説明し、口語訳を言い始めた。
「…、ということからこの文は『これを射損じることがあるならば、弓を折り自害して…。」
僕は顔の熱いものが引いていくと同時に段々と身勝手な怒りを感じ始めた。僕が古典ができないことは先生も知っているはずなのに…。
「はい」
僕の思考を遮り、右の方から声が聞こえた。隣の女子が僕の消しゴムを差し伸べている。あぁそういえば消しゴム落としたっけ。先生のせいですっかり忘れていた。
「ありがとう」
僕は彼女の目を見ながらそうつぶやき、消しゴムを受け取った。
「どういたしまして」
彼女はにこりと笑い、静かにそう言った。その爽やかな笑顔にさっきまでの怒りはかき消された。少しの間、僕は幸福な気持ちに包まれた。これが春華との初めての会話である。
今まで話したことがなかったが、春華はどちらかというと話しかけづらい女子の一人だった。友達の前では笑顔を絶やすことはなかったが、他の人に対しては愛想がいいとは言えなかった。しかし、僕に向けられたその笑顔によってそんな印象は一瞬にして吹き飛ばされた。僕はその笑顔にやさしさと親しみを感じていた。