たんぽぽ
 それから少しずつ話すようになった。

 授業中、よくボーッとしてしまう僕は先生がどこをやっているのかわからなくなり、その度に春華に聞いたり、ノートを見せてもらったり、ペンや消しゴムを貸してもらったりした。傍から見れば迷惑だったかもしれないが、いつも春華はやさしい笑顔で快く僕の頼みを聞いてくれた。

 掃除時間に一緒にサボったり、通学中のバスの中で一緒になって話すこともあった。こうして春華と話せるようになってから、僕達は少しずつ距離を縮めていった。

 それはこうだとか、それはああだとかと深く話すこともできるようになった。僕は自分の考えをしっかり持っている春華と話すのが楽しかった。僕もなまじ、自分の考えを持っていたので、春華と考え方が同じだったときは深く共感できたし、反対に、考え方が異なっていたときは、お互いに頑固でゆずらないためによく言い合いにもなった。こんな風に話ができる女子が他にいなかったため、僕は春華を特別に思い、少しずつだが、確実に魅かれ始めていた。

 僕は、とある地方にある中高一貫の学校に通っていた。僕の実家から三つ程、県を越えたところにある。僕は私立の小学校に通っていて、いわゆる中学受験をしたのだが両親に無理を言って、県外の中学に行かせてもらうことになった。

 別にこの学校しか合格しなかったわけではなく、家から通える距離にある中学校も受験して合格していた。しかし、なぜか小さいときから親元を離れるのに憧れていて、中学から下宿暮らしをすることとなった。

 僕が住んでいた下宿所は、路面電車が通る大通りから側道に入り、そこからさらに入り組んだ細い道を入った、疎水沿いにある木造作りの大きな一軒家で、リボン館といった。一階に食堂があり、二階に八畳ほどの部屋が六つあった。僕はその一番奥の部屋に住んでいた。毎日、朝ご飯と晩ご飯を食堂のおばさんが作ってくれていて、いつ食べるかなどは個人の自由であった。そのためご飯は作り置きで、お世辞にもおいしいご飯と言えるものではなかった。トイレと風呂は共同で、トイレは二階に二つあり、風呂場は普通の家の風呂と同じような作りのものが一階にあった。

 リボン館には他に五人の高校生が共同生活をしていた。もちろん僕が最年少であり、唯一の中学生だった。
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