たんぽぽ
 僕が通う学校は山の上にあった。

 景色は最高によかったが交通の便などは最悪だった。

 この学校の生徒は山の下まで自転車で行き、そこからはバスが出ていた。リボン館から学校の山の麓までは自転車で約十五分、そこからバスで上り続けても山の頂上までは十分程かかり、歩けば三十分はかかった。

 山の坂道はきれいに舗装されており、春になると道路わきには桜や梅などがきれいな花を咲かせ、立派な竹やぶもあった。ほぼ三百六十度に曲がる急カーブが続き、そのカーブを七つほど越えると下界が見渡せるひらけたところに出る。そこからはこの街を見下ろすことができた。

 スーパーマーケットに買い物に来ている多くの主婦や、近くの小学校のグランドで元気に遊んでいる小学生や、遅刻したのだろうか急いで自転車を走らせているこの学校の生徒や、大通りを通る車の列や、路面電車も見えた。景色が見えるかどうかはその日の運次第だったが、僕はこの街が一望できるこの場所が好きだった。

 全校生徒千二百人が乗るバスは行きのバスも帰りのバスも毎日、生徒が缶詰のようにパンパンに詰められる。そのため、バスの座席に座れるかどうかが鍵になる。つまり、バス停でバスを待つ順番にかかっているのだ。運よく僕の前までの生徒が来ているバスに乗ることができれば、僕は次の便のバスに乗ることができ、悠々と座ることができたし、好きな景色もゆったりと堪能できた。しかし、満席のバスに乗らなければならないときは最悪だ。無理矢理バスに詰め込まれ、下手をすればつり革につかまることすらできなかった。そんな状態であの坂道を登れば、どうすることもできない。バスが右に曲がれば左の人に、バスが左に曲がれば右の人に、全体重をかけてしまうことになる。それが知っている人ならまだよいのだが、知らない人なら気まずいことこの上ない。そのため景色を気にしている場合ではないのだ。
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