たんぽぽ
「高嶺ッ!」

 振り返ると竹本が小走りで近づいて来た。顔は満面の笑みである。

 僕は竹本が充分近くに来てから、座ったまま竹本を見上げて言った。

「そんなに急いで、そんな大事なことなの?」

 僕は竹本の笑顔を見て、春華とは無関係のことだと確信し、ホッとして聞いた。

「高嶺、よかったね」

 竹本は僕の質問には答えず、嬉しそうにそう言った。少し息を切らしている。

「エッ?何のこと?」

 僕には見当もつかなかった。

「へへッ、あー久しぶりに走ったし疲れたよ」

 そう言いながら、竹本は僕の横に腰掛けた。なぜか薄ら笑いを浮かべ、もったいぶっている。

「日頃運動してないからだろ。で、何の話だよ」

「じゃあね、良い知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたい?」

 竹本はにやついて言った。

「ん?何それ?じゃあ、良い知らせ」

「いい知らせは、……。別に嫌ってないって」

「エッ?嫌ってない?」

「だから、春華がッ!昨日、高嶺言ってたじゃん。春華が高嶺のこと嫌ってるって。別に春華、高嶺のこと嫌ってないみたいだったよ」

 竹本は笑って言ったが、冗談を言っているようではなかった。

 僕は一瞬、思考が止まる。

「エッ…。…。もしかして、お前、今井に聞いたの?」

 心臓がチクリとして、鼓動が早くなっていく。

「うん」

 竹本は悪びれることもなく、はっきり頷いた。

「エーッ、俺、聞かなくていいって言ったじゃんッ!」

 僕は焦って、少し興奮気味に言った。

「まぁまぁ。別に嫌ってないって言ってたんだし、逆にそれがわかってよかったじゃん」

 竹本は僕をなだめる。

 竹本が終始、笑顔の理由がやっとわかった。
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