たんぽぽ
「うん。ほんとありがと。あっ、で、悪い話は何?」

 すっかり忘れていて、あわてて聞いた。

「エッ?悪い話?そんなのないよ」

 竹本は下手くそなとぼけ顔をして言う。

「だって、言ってたじゃん。良い話と悪い話があるって」

「良い知らせと悪い知らせって言った覚えはあるけど」

 また、悪い笑みを浮かべる。

「そんなの、何でもいいから。悪い知らせって何?」

 僕は気になって仕方がない。もしかしたら、他にも春華が何か言っていたのかもしれない。

「ん?そんなの無いよ」

「エッ…。どういうこと?」

「だって、良い知らせだけだとおもしろくないじゃん。悪い知らせもあるって言ってた方がおもしろいかなぁと思って」

「なんだよ、それ。全然おもしろくないし。ちょっと緊張したじゃん」

「ヘヘッ、ごめんごめん。ほんと悪い知らせは何もないから。よかったね」

「そか…。それならほんと、よかった…」

「ヘヘッ。高嶺、もう帰るの?今日は残って勉強しないの?」

「うん。今日はね。はじめは帰って寝るつもりだったけど、今井に何て送るかゆっくり考えるよ」

「そうだね。そうしなさい。じゃあわたし、残って勉強するし」

 竹本はそう言うと、立ち上がった。それを見て僕も立ち上がる。

「そか、頑張って。じゃあ、今日はほんとありがと」

「いえいえ、またね」

「うん」

 竹本は軽く手を振り、高校棟の玄関に向かって歩き始めた。

 僕は、竹本の後ろ姿を見送り、バス停に並んだ。

 僕達が話している間に、下校の生徒のピークも過ぎていて、バス停にはそれほど多くの生徒はいなかった。
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