たんぽぽ
 僕は、もう一度竹本からのメールを見る。

 そして、何気なく春華のメールアドレスをメモリーに登録した。

 「今井春華」と。

 なぜか不思議な感じがした。春華の名前を携帯電話で入力しているとき、とても久しぶりのこの名前に懐かしさと親しみを感じた。

 まさかこんなことになるとは…。

 人生とは本当にすごい。思ってもみないことが起こる。それがいいことであるか、悪いことであるかは起きてみなければわからないだろうけど…。

 とにかく、このチャンスを生かさなければ。

 それにしても何と送ろうか?

 「久しぶり」だけでは寂しいし、普通に「勉強してる?」とかでいいだろうか?

 メールを送ったら春華はちゃんとメールを返してくれるだろうか?

 メールは続くだろうか?

 期待と不安が僕を包む。

 バスに乗って、坂を下る。いつもより人が少ないせいで、バスの中に立っている人はほとんどいない。

 僕は、窓から外を見る。そこには、いつもと何も変わらない景色があった。

 悩むに悩んで、結局メールを春華に送ったのは、夜の8時頃だった。

 メールの件名に「高嶺雄太です☆」と書き、内容は「こんばんは♪久しぶり☆」とだけ送った。

 メールを作っては消し、作っては消して、色んなことを考えた割には簡潔なメールになってしまった。

 メールとはいえ、ほぼ3年ぶりの会話である。

 あまり馴れ馴れしくしても春華がひいてしまうのではないかと思ったり、よそよそしくし過ぎても会話が弾まないのではないかと思ったりした。

 もっと長文にしようかとも思ったが、何を送ればよいかわからなかった。

 あのときのことを謝ろうかとも思ったが、もう昔のことだし触れないほうがいいと自分で判断してやめた。

 メールを送った後で、ちゃんと春華が返してくれるのか不安だった。
< 63 / 70 >

この作品をシェア

pagetop