たんぽぽ
 ずいぶん長い間拒んだが英男に「まさか逃げる気か?」、「雄太はいつからそんなにヘタレになったんだ」などとにやつかれながら言われると、負けず嫌いの僕はこの野郎と思い、半分やけくそで告白を決意してしまったのだ。英男とは中学1年生からの付き合いだったが、僕の性格はもうつかまれているようで、いいようにやられてしまった。

 電話での告白。初めは英男が僕の携帯電話で春華の家に電話した。僕を見てにやにやしながら相手が出るのを待っている。

「あっ、門倉といいますが春華さんいますか?」

 英男は似合わない丁寧な口調でそう尋ねる。電話の向こう側で誰かが何か言っているが聞き取れない。

 僕は春華が家にいないことを願った。英男は携帯電話を耳にあてたままで僕に言った。顔は相変わらずにやけている。

「いるってよ。今呼びに行ってもらった」

「マジで?最悪…」

 僕は心から思った。

 やばい…。どうしよう…。焦っているうちに春華が来たようだ。

「あっ、今井?俺、門倉。何か雄太が今井に話があるらしいよ」

 はい、と携帯電話を渡される。仕方なく受話器を耳にあてる。

「も、もしもし…?」

 僕の心臓は破裂しそうなくらい速く鼓動している。

『もしもし…?高嶺…?話って何…?』

 不思議そうな春華の声が電話ごしでもすぐにわかった。

「あっ、あのさ、今井って今、付き合ってる人とかいるの?」

 声がうわずっている。無理もない、まともに告白するのは初めてだった。

『エッ…、いないよ…』

 春華が不審そうに答える。

「そっ、そっか…。じゃ、じゃあ、あの…、好きな人は?」

 どもっている自分がやけに恥ずかしくてたまらない。手に汗をかいてきた。携帯電話が持ちにくい。

『…。好きな人もいないよ…』

 春華は少し勘付いたような感じだった。
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