ジキタリス
その日の夜。
『さぁ、遠慮なく召し上がって下さい。沢山作ってありますから』
入江刑事の妻、美都子は気だての良い美女だった。しかも何の偶然か、面立ちが入江刑事にそっくりだった。
『なんだか変な食卓になってしまいましたわね…申し訳ありません。どうぞお気になさらないで下さいね』
あの人は仕事人間なのです、と美都子は少し苦々しそうに笑った。
入江満刑事は夜に警官殺しの張り込みを頼まれ、入江家は美都子夫人と塚原だけだったのだ。
『いえ、こ、此方こそ御招待頂いたのに大した物も持たず申し訳ない限りです』
どうも人の家に呼ばれると言うのはダメだ、と塚原は思った。
しかし、食事を進めていく内に二人は段々と打ち解けていき、少しぎこちないながらも笑い声が聞こえる食卓となった。
召し上がって下さい、と勧められる物は皆美味しかった。
夜も遅くなり、そろそろ入江も帰るというので塚原は帰ることにした。
『では、また』
そう言って別れを告げるとなんだか幸せな気分になりながら塚原は上り坂を上がっていった。