澄んだ瞳に



私は、淳に抱えられたまま、建物の外に出ると、すぐ目の前に設置してあった、ベンチに座らされた。


その横に、私の肩を抱いたまま、淳が座った。



「澪、大丈夫か?」と、私の顔を覗き込むようにして聞いた。


私は、喋ることが出来ず、少しだけ、首を縦に振った


「大丈夫じゃねぇだろ?
顔が真っ青じゃねぇか!」

私たちの前に立って、私の様子を心配そうに見ている、智香とお兄ちゃん……


智香が

「ごめんね、澪……」

と、言った。


お兄ちゃんも

「悪かったな、澪…
俺、飲み物買って来るわ」
と、言って、智香と二人で買いに行ってくれた。




激しい動悸が止まらない。

息が荒くなる。


真夏なのに、何だか体が冷たく感じる。


淳が優しく背中を擦ってくれていた。




お兄ちゃんと智香が、飲み物を買って戻って来た。


差し出された、ミネラルウォーターを一口飲んだ。


スーッと、潮が満ちてくるように、体の体温も満ちてくるようだった。


だいぶ落ち着いた。


心臓の鼓動も、少しずつ、スピードが落ちていくように、静かになった。



その様子を、ずっと横で見ていた、淳が言った。


「顔色も戻ったようだな……」


お兄ちゃんと智香も、安心したと、胸を撫で下ろす。


そして、私は、

「心配かけて、ごめんね。もう、大丈夫だから…。」
と、言った。



すると、お兄ちゃんが、

「澪、帰ろ。家帰って、ゆっくり休め……」

と、言ったので、


淳も、智香も、そうした方がいいというのように、頷いた。


私は、慌てて返事をした。
「嫌だ!帰りたくないっ!
少しでも、淳と一緒にいたいもん……。」


お兄ちゃんは、呆れたように、

「好きにしろ!」と、言った。



そして、12時に落ち合う約束をして、それぞれペアで別れた。


お兄ちゃんは

「わりぃな……淳、澪……」

と、言って、智香と二人で、次なる絶叫アトラクションへ向かった。



悪いな。と言ったにしては、やけに嬉しそうな、お兄ちゃんだった。





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