澄んだ瞳に
お兄ちゃんは、また呟くように言った。
「………やれねぇ。」
よく聞こえなかった。
「……えっ?何て言ったの?」
「淳のように、いつもそばにいてやることが、出来ねぇって、言ったんだ!!」
と、急に怒り出したので、ビックリした。
「……どういうこと?」
私の問いに答えた、お兄ちゃん。
「来月から、出張に行く。予定は3ヶ月だ。その間、俺は、智香ちゃんの傍にいてやれねぇ。智香ちゃんに辛い思いをさせることになる。」
と、言って、また黙ってしまった。
お兄ちゃんは、前に付き合ってた彼女のことを、思い出して、言ったんだろうと思った。
お兄ちゃんの長期出張が、原因で別れたらしい。
お兄ちゃんが、彼女を家に呼んだことがあった。
その時に、お兄ちゃんの部屋から、言い争う声が聞こえてきたのだ。
……だから、出張なんか、行かないでって、言ってるの!!
悠哉に逢えない私が、どれだけ寂しい思いをしてるか知ってるの?
お兄ちゃんの声は低くて聞こえなかったが、最後に彼女が言った言葉は、はっきりと聞こえてきた。
じゃ、私たち、別れましょ
お兄ちゃんも、だいぶ堪えたのか、それから1年、彼女を作らなかった。
そして、今日、智香と付き合うことになった、お兄ちゃんが困惑していたのだった。