澄んだ瞳に




「あっ、そうだ…淳、ガム食べる?」


私は、鞄の中から、ガムを取り出して、一つ淳に差し出した。


すると、淳は、雛鳥が親鳥が餌を運んでくるのを待っている時のように、口を大きく開けた…


私が呆気に取られていると、淳が言った。


「運転中だから、手が塞がってるだろ…」


そう言って、また口を開けた。


私は、外紙をめくってガムを取り出すと、それを淳の口の中に入れた。



ガムを口の中に放り込んだ瞬間、指が淳の唇に触れた…



柔らかい感触…


いつも私の唇に触れる感触と同じだった…



私は、サッと手を引っ込めた。



すると、淳が言った。


「そんなに慌てて引っ込めなくても、噛まねぇって…」


そうじゃない……


淳とのキスを思い出したからだ……


やっぱり、私は変なんだ…

淳との体のつながりのことばかりを考えてしまう私は、おかしいんだ……



私は、また窓の外に、今度は顔ごと向けた……



いつもの淳なら、そんな私の様子を見て、必ず聞いてくる……『…どした?』って……


でも、今日の淳は聞いてこない……


きっと、淳も感付いてるはず。だから、敢えて触れないようにしているのだと思った。





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