澄んだ瞳に


あの日、俺は、澪を抱きたいと思った。


進学などしない、俺と片時も離れたくない、結婚したいと、泣いて訴えた澪…


そんなことされたら、完全に理性を失って当然だと思った。


でも、澪に、いつも俺に言い寄ってくる女みたいにはなって欲しくなかった。


いや、澪は、好きだから、抱かれたいと思ったに違いないが、それをあいつの口からは聞きたくなかった。

そして、今、澪がとった態度からは、あの日、俺が拒否してしまったことで、ずっと気にしているのだと、痛いほど伝わってきた。


それなのに、俺は、そんな澪の気持ちにも気付いてやれなくて、澪を傷つけてしまうようなことを、平気で言ってしまっていた。



情けねぇな、俺……

そして、ごめん…澪




ホテルに着き、早速チェックイン手続きをした。


部屋を二つ用意してもらっていたが、一つがツインで、もう一つがダブルだった。


ダブルをツインに変えて欲しいと頼んだが、生憎満室ということで、叶わなかった……と、いうことで、ツインの部屋は、悠哉たちに使ってもらうことにした。

悠哉は気兼ねしたが、俺はソファーに寝ることに関しては苦ではなかったし、慣れていた。仕事で疲れて家に帰り、風呂から上がり、ビールを飲み干すと、そのまま朝までソファーで寝てしまうことが、多かった。


部屋へと向かった。


悠哉たちが手前の部屋だった……澪はキョトンとしていた。

まさか、ここへ来てまで、4人同じ部屋と思っていたとは……


悠哉たちと別れ、すぐ隣の俺たちの部屋へと向かった。


鍵を開け、澪を先に部屋の中に入れた。


ドアが閉まると、澪は、どうして?と聞いてきた……

俺と二人でゆっくりしたいって言っただろ?


澪は納得したみたいだが、二人っきりで旅行に来ていたとしても、同じことだった。





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