澄んだ瞳に



あの人が、車に乗ると、後部ドアが閉められた。


ドアを閉めた男性は、あの時の運転手だった。



黒いリムジンは、ゆっくりと動き出す……



私たちが立ち止まっていた前を通り過ぎ、大通りに出ると、加速して走り去っていった。




あの人を見送っていた、数名の男の人たちは、リムジンの姿が完全に見えなくなると、ビルの中へと、入って行った。





「あの人、一体どういう人なんだろう? 見送りをしてた人たちって、どう見ても、あの人よりは年配の人だったよ〜?それなのに、あの人に対して服従している様子だったもん。ますます気になる人だね……」



「……う、うん。」


気のない返事をしてしまった私だったが、あの日以来、あの人のことが、ずっと気になっていたのだった。


ずっと頭の片隅に、あの人がいた……



顔、声、仕草、微かに香っていた香水の匂い……


自分でも、不思議に思っていた………




「澪、来て見て……?」




私の真横にいた智香が、いつの間にか、ビルの前に立って、私を呼んだ。




私は、智香のところへ、小走りでいった……






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