澄んだ瞳に


私が車に近付いて行くと、矢崎さんは言った。


「早く、乗れ!」


「…は、はい。」



相変わらず、命令口調…


私は、後部座席のドアを開けた。


「バカ!こっち!!」


矢崎さんは、助手席を指差しながら、言った。


バカ!って……

だったら、最初から、助手席に座れ!って、言ってくれたっていいのに……


私は心の中で、思いながら、車の後ろを通り、右側に回った。



助手席のドアを開け、車に乗った。


「おはようございます。」

私は改めるように、挨拶をした。


「あ〜……。」


……はっ?

それだけですか…?


矢崎さんの返事を、少し待ってみたが、黙ったままで何も言わず、車は発進した。


……………………。

……………………。


矢崎さんは、何も言わず、ただひたすら前を向いて、運転している。



どこに行くんだろ……


私は聞いてみることにした

「あの〜…?」


「何!?」


何!?って……。

そんな言い方されたら、何も聞けなくなる……


いつも命令口調だし、言い方もきついし……。


何故だか悲しくなる自分がいた。



私は俯いた……


「……いえ、何もありません…」


「聞きてぇこと、あんじゃねぇの?」



そう言いながら、矢崎さんが、少し私の方を見たような気がした。



「…あの、そしたら、一つだけ伺ってもいいですか……?」


私は遠慮がちに言った。



「あ〜……。」


また、『あ〜』と言っただけだった。



「これから、何処に行くんですか…?」


恐る恐る聞いた。


「俺が、行きたいとこ」



何それ…?


俺が行きたいとこ……



逢えただけで、嬉しかったのに…


たがら、矢崎さんに、期待なんか抱いてた訳じゃない…


でも、きちんと教えてくれたって……



何だか虚しくなり、目には涙が溢れてきた










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