澄んだ瞳に
「ここが、俺の一番大好きな場所だ。」
矢崎さんは、まだどこか一点を見つめたまま、ポツリと言った。
「毎日、ビルの最上階から見る景色は、霞んだ空と、殺伐としたビルばかりで、外に出れば、行き交う人の群れ。でも、ここは違う。澄んだ空と木々の緑、怖いくらいに静まり返っているが、凄く癒される。」
また、ゆっくりとタバコを吹かす。
「澪……」
「俺は、高校生になったお前を見た時から、好きだった。」
高校生になった私を見た時から……
どういうこと?
高校生になる以前から、知っていたってこと?
疑問に思った……
矢崎さんは、話を続けた。
「それから2年の月日が流れて、この前、お前に逢うことが出来た。これを機に俺は、お前とのつながりを作りたかった。」
つながりを作りたい……
「お前に、名刺を渡した。俺の賭けだった。お前からの電話を待った。」
賭け……
「お前は、電話をかけてくれた。それでお前を誘うことができた。」
コーヒーを一口飲み、話を続ける。
「お前に、俺の気持ちを気付かれたくなくて、お前に誘いを断られるのが、怖くて…キツイ態度で接した。ほんと!情けねぇよな〜、俺……」
「やっき、車の中で、お前の涙を見た時に、俺がお前を泣かせてる、と思った。だから、すぐお前に気持ちを伝えた。」
一点を見つめたままだった矢崎さんが、私の方に目を向け、そして私をジッと見つめた。
その瞳に、吸い込まれそうになる、私だった。