転んだら死神が微笑んだ
男の人「お譲ちゃん…。」

その男の人は、まぎれもなく山田さんだった。

わたしは声が出せなかった。


あまりにも違いすぎて。

わたしが今まで見ていた山田のおじさんとは全然異なっていて、すごく威圧的で…。

山田「こんなところで何をしている?」

あかり「あ、あ…あの…」

山田「早くお家に帰んな。」

あかり「ここから先には行かせません!!」

わたしがとっさに取った行動は、腕を精一杯に横に広げ、山田さんを通せん坊することだった。

山田「何の真似だ?」

イライラした感じの声が、わたしにさらなる緊張感を与える。

目の前にいる山田さんは、完全に私の知っている人じゃなかった。

知っているはずなのに、知らない人。

あかり「坂口さんのとこには行かないで!」

山田「どうして、それを知っているんだ?」

あかり「わたし、聞いたんです。おじさんが、夜中電話をしているのを。その時、坂口さんを殺すってことを。」

山田「クックックック…。まさか、聞かれてたとはな…。俺もとんだヘマをやっちまったぜ。酔っていたとはいえ、人様の家でそんな話するもんじゃあねぇなぁ。」

あかり「人を殺すなんて、やめてください。」

山田「こいつは俺の仕事だ。すでに何人もあの世に送っている。だから、いまさらどおってことないんだよ。」

あかり「…。」

言葉が出なかった。

人の命を絶つってことがどんなに恐ろしいことか、想像しようとするだけでも、わたしにはできないというのに、このおじさんはすでにその感情すらも失っているんだ。

そんな人を、それすらもわからないわたしにどうやって説得なんてできるのだろうか?
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