転んだら死神が微笑んだ
山田「昔、一人の会社員がいた。どこにでもいるような普通の会社員さ。まじめに仕事に取り組み、汗水たらしてがんばってきた。
それもすべて、家族のためさ。家に帰れば家族がいる。家族が笑って、出迎えてくれる。そうやって生活していたんだ。」

山田「だが、あるとき、上司に呼ばれて、電子チップを取引先の会社に運ぶように命じられた。何も疑問に思うことはない。品物を届けることぐらい当たり前のことだからな。
しかし、そいつは聞いてしまったんだ。別の場所で同僚たちが、その電子チップについて話をしているのを。」



『あれ、やばいらしいぜ。』

『ああ、俺も聞いたよ。何でも、脳を破壊する電波を発生させる機械を作ってしまうらしいぜ。』

『本当か!?だったら、それって悪いことじゃないのか?』

『心配ない。表向きはパソコンに組み込むために開発された製品だ。会社は悪くない。』

『でも嫌だよな〜。その製品に関わるのって。なんか、悪いことしてるみたいだもんな。』

『悪の片棒を担ぐってやつか。フン。関わってる連中は皆、そんなこと知らずにやっているのさ。』

『怖いな〜。俺たちも知らずにやっていたりして。』

『かもな。』



山田「ただの取り越し苦労だったなら、どれほど良かったことか…。男はできなかった、そのチップを取引先にもって行くことが。会社に行くことすらできなくなっていた。自問自答を繰り返し、男はパニックに陥っていた。家にも帰らず、何日もホテルや公園で寝泊りをした。」
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