スワローテイル・バタフライ
見てしまったんだ。




“お願い…もうやめて…”


今にも消えてしまいそうな

震えた声。



その声の主は

俺も何度か会った事のある、兄貴の彼女だった。




口にするにも躊躇ってしまうほどの残虐な仕打ち。

忘れかけていた
あの日の記憶がフラッシュバックする。




その時俺は思ったんだ。



兄貴は相手が憎くてそういう事をしてるんじゃない。


むしろその逆で…


愛するが故に取ってしまった行動なのだと。



しかし、そんな歪んだ愛情が普通の人に通じるわけもなく…

兄貴は高校生活の三年間、付き合っては別れ付き合っては別れを繰り返していた。


幸か不幸か
あいつは女にモテた。


そりゃ顔は整ってたし、普段は明るくて面白くてムードメーカー的な存在だし

そんな一面を知らなければ連れて歩くには最高の男だと女は思うだろう。



しかし誰と付き合っても例外なく数ヶ月のうちに終わってしまうのもまた、動かぬ現実。


それが…兄貴の恋愛不信の理由の一つなのだ。


兄貴からしてみれば

“こんなに愛しているのに、どうして…?”

と不思議に思う事だろう。


そんなイカレたあいつ自身に大きな恐怖を感じた事もあった。


けれど

同時に可哀相な人だとも思った。
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