スワローテイル・バタフライ
「…何かあったの?」
「わっ!お前…何勝手に入って来てんだよ!」
突然のあたしの登場に慌てた様子の浩太。
「だってー誰も出て来てくれないからさぁ!…てかマスターどしたの?」
バックルームのソファーの上で俯せになっているマスターの腰には何箇所も湿布が貼られていて。
「それがねぇ…ギックリ腰になっちゃって」
マスターは腰をパシパシと軽く叩きながら明るい口調でそう言った。
「ギックリ腰!?」
「困ったわぁ…店休むわけに行かないし…」
この店には従業員は浩太とマスターしかいない。
だからどちらかがいないと仕事にならないのだ。
困り果てている様子の店長。
あたしは放っておけなくなり、
「あのっ…あたし手伝いましょうか!?」
という一言を無意識に発していた。
「えぇ?…それは凄い助かるけど…大丈夫なの?」
「もー全然ノープロブレムっす!!」
突発的な閃きだった事は間違いないけれど
この店で働きたいと思っていたのは確か。
これはきっと神様くれたチャンスなんだ。
「じゃあ…お言葉に甘えちゃおうかしら」
「はい!任せてください!」
コメカミを押さえ込みながら溜息をつく浩太をよそに
あたしはこうして、マスターの腰が良くなるまでの間、臨時でバイトする事になったのだった。