月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る
東久志の持つ一種の特殊能力のようなもののせいだろう。

女たらしならぬ、人たらしというやつだ。

あたしはこんな質問をしてみた。

「東はウソをつくのが上手だと思いますか?」

それに対して社長は両手を大袈裟に広げた。

「あいつの口癖ってなんだと思います?」

?さぁ?

「あいつ2年で自分の店を持つって言ってるんですよ」

社長はこめかみを叩きながら笑った。

「生意気で頭おかしいかと思うかもしれません。でもね、こんな虚構と現実が入り交じってる業界では、ある程度ハッタリきかないとやっていけないんですよ」

社長はいったん、言葉を切った。

「でも、お客さんに愛されるにゃ、根が正直にならないとムリです」

「正直」か。

なるほど、と思わず感心してしまった。

捜査の参考になったかは別だけど。

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