月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る
「社長さんは吉原しのぶのことはご存じですか」

達郎の問い掛けに、社長は何度もうなずいた。

「よく覚えてる。忘れないよ、あんなコは」

「そんなに印象的でしたか」

「若いのに男のあしらいが巧みだったね。うちの連中はいい勉強になったんじゃないかな」

へぇ。生前の吉原しのぶに1回ぐらい会ってみたかったかも。

達郎みたいなマイペース男にどんな風に接したんだろうかと思った。

話を終えて店を後にしようとした時、社長にこう聞かれた。

「やっぱり犯人はヒサシなんですかね?」

あたしたち捜査陣は目下のところそう見ている。

アリバイの件だって、どっかに抜け道はないかとか、他に移動手段はなかったとかアレコレ検討中だ。

でも一方で、本当に東の仕業かと思ってたりもする。

結局のところ、わからないというのが本音だ。

「現時点ではなにも」

「正直」に、そう答えておいた。

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