一筋縄では逝かせない★
男はただ前を見て走っていました。
「まさか…そんな…だって…桃子…っ!」
男はぐっ、と目を瞑り、強く首を横に振りました。
「違う…ありえないだろ…桃子が…こんなところに…いるなん…て…」
不意に脱力し、膝を折って呆然と座り込む男の背後から、
「若…待っ…若っっ!!」
苦しそうな叫びが聞こえました。
その声の主は、座り込む男を見つけるなり、がっ、と肩を掴んで目を涙でいっぱいにしました。
「若…っ!」
「離せよ!!」
「なりません!わたしは…若にお仕えする身でありながら…若をこんなに長くお一人に…」
「そういうのやめてくれよ…!頼むから…っ…一人にしてくれ…っ!!」
「わ…」
男の肩を掴んでいた手が力を無くし、すとん、と滑り落ちました。
「おいっ、二人とも…」
追いかけて来たのか、猿がぜぇぜぇと荒い息を吐きながら二人の側に駆け寄りました。
「桃子は…?」
男が力なく呟くと、
「犬と一緒にいると思う…あいつ走って追いかけられるような状態じゃなかったから…」
猿は絞りだすように言い、
「どういうことか…説明しろよ…!!」
男を問い詰めました。
「……」
男はくっ、と唇を噛みました。