小緒良ノート
「わあ、負けちゃった!」

そう言う女の子は、なぜか楽しそうな表情だ。

「どうしてカードを教えてくれたの…?」

目を丸くして彼女に尋ねる。

「それはね」と彼女は笑顔で、「おじさん日本人でしょ?」

うん、と私は頷いた。

「ママが言ってたの。私たちは戦争で日本の人たちに酷いことをしちゃったから、優しくしてあげなさいって。だからジョーカーじゃないほうのカードを教えたの」

「……。」

ニコニコして言う彼女。

私は複雑な気持ちでそれを聞いた。おそらく、少女はママの言った意味をまだよくわかってはいないのだろう。

だが、私がどうこう言うべきことじゃない。この子なら大丈夫だ。成長して知識を身に付けるにつれ、自分の道を歩き出すだろう。

「そうか…ありがとう」

私はニッコリと頷き、ポケットからキャンディを取り出した。

「お嬢ちゃん、キャンディは好きかい?」

「わあ、おじさんありがとう!」

彼女は私の手からキャンディを受け取ると、通路を走っていった。

もうすぐモンゴメリだ。


《おわり》
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