切腹
連れて来られたのは 色町でも かなりはずれに 位置する 洋風の建物だった。
(ここは…)
春吉も 正宗も 知っていた。 小一時間いるだけで びっくりするような 金を 取られる飲み屋。 現在で 言う 高級クラブといえば わかりやすい。
その上、客として 入るのにも 条件がある。かなり大きい商いを している商人か 奉行職以上の武士である。
(そうか、八反は奉行になったんだ…なるほど
ここに 通ってたのか…)
「お通を 呼べ」
「お待ちを」
お通という女を 待つ間 八反たちのもとに かわるがわる容姿端麗としか形容のしようかない、若い女が来て 酌をしながら 話をしていく。 その立ち振る舞いは 色町の芸者などとは 比べ物に ならない位 上品で 明るく 知的センスに 溢れていた。正宗も 武士のはしくれ 教養を ひけらかしながら 話をすれば にこやかに真剣に聞き 褒める。
その褒め方が 知識が ないと できない様な褒め方で これがまた 男を いい気分に させる。意地悪く 下品な 話をしても 笑いながら 乗って来る。(こやつらは 男を接客するプロだ! 八反が ハマるのも 無理あるまい)
春吉など 女が 替わるたびに 惚れている様子であった。
ただ一人八反だけが 浮かない顔している 「お通」という女以外は 眼中にないようだ。
顔に 早く とにかく早く会いたいと 書いてあるようだった。

< 3 / 10 >

この作品をシェア

pagetop