プライベート・スカイ



ヤバ…っ!!!!

止めようと彼女の手を掴む前に、美夜は持っていた包丁を横に引いた。

「痛っ…!!」

「バカっ!!お前なにやってんだよ!!」

慌てて彼女の手から包丁を取り上げ、切った手首を見た。

…幸い深い傷ではなく、血は出ているけど病院に行ったりするほどのものではなかった。

それでも確認する。

「大丈夫か!?」

「痛い…痛いよぉ…」

傷口を押さえながら美夜は泣いた。
死ぬほどのものではなかったと安心すると同時に、怒りが込み上げてきた。

「ふざけた事するな!」

「だって死にたい…」

──痛くて深く切れなかっただろうに。

美夜が本気で死ぬ気だったかどうかは分からない。

でも、一度決断したオレの心を揺さぶる材料にはなった。

少なくとも──美夜にそんな思いをさせた罪悪感がある。

「…バカな事言ってないで、向こう行こう」

美夜をリビングのソファに座らせる。

「とりあえず落ち着くまで…居るから」

「透依…」

美夜はオレに抱きついてきた。
ほんの少し前だったら振り払えた腕も、今はためらってしまう。

「お願い、ずっと一緒に居て…じゃないと、私…自殺するかもしれない…」

< 112 / 379 >

この作品をシェア

pagetop