プライベート・スカイ
死にたがりの母親。
だけど死ねない不幸な女。

部屋を覗くと、広いベッドの真ん中で、包帯を巻いて痛々しい姿の母親が眠っていた。

静かに寝息をたてて、穏やかそうな寝顔だった。

また…死ねなかったな。こうなると相当、運が悪いんじゃないかと思う。

飛び降り。首吊り。リスカ。睡眠薬…あげく車にはねられたのに、この軽傷。

…なんで生かされてるんだろう。

この人を見ていると、生きてても人生に価値なんかないように思える。

楽しい事なんか何にもない。

心は病み、家族と呼べるものも絆は浅く、この世で生きていく目的もないのだから、死なせてやった方が幸せなんじゃないかな…

せっかく顔を見に来たけど寝てるし、後でまた覗いてみようか。

オレは居間に行き、松江さんのいれてくれたお茶を飲んで一息ついた。

それから自分の部屋に行き、持ってきた仕事をしているうちに

気づくとすでに夜の七時を過ぎていた。

「さすがに母さんも起きてるだろ」

一人で呟きながら母親の部屋を覗くと、部屋は真っ暗だった。

相変わらず寝息が聞こえる。

…寝過ぎじゃないの?

ベッドの横にあるスタンドの灯りをつけてオレは母親の様子を見た。
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