プライベート・スカイ
真っ暗な室内。手探りで灯りをつけると私は自分のロッカーの鍵を開けた。

中からおもむろにLOUIS VUITTONのバッグを取り出し中を確認する。

'それ'だと分からないように化粧ポーチの中にしまいこんだ小さな袋。その中にはピンクのハート型の錠剤が5粒残っていた。

こんな可愛い形にしなくてもよかったのにね。ウケ狙いだったのかどうか定かではないけれど

一粒飲んだだけで数時間は天国に逝ける…持続性と副作用が少ないのが売りの

『Sweet Pain』

それが、この薬の名前。

…いつもなら、次の分を'発注'しなきゃならない残量。
でも私は躊躇っていた。

もうこんな薬を売る手伝いなんて辞めたいって、前から思ってたの。

店に来る決まった顧客から、買いたいと申し出があれば売っていた。

それは当然、私を指名してくれるお客だし、売り上げの一部を佳依から貰えたから、何にも考えずに気がついたら売人になっていた。

最初はアルバイトのつもりだったのに。

これがどんな薬かも知らないでね。

知らないから平気でバラまいた。

薬の正体を知っても、平気でバラまいていた。何が起きたって、私とは違う世界の出来事だもの。
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