白い手
「……そうね」

佐恵子が何となく口を聞きたくなさそうなので、百合は話し掛けるのをやめた。

入社式が終わると、懇親会という名の立食パーティがあり、百合は内定式で顔見知りになっていた数名と、自分達の配属先の話などをしていた。

「高梨さん、海外特需だっけ?エリート部署らしいよー。高梨さんも英語バリバリ出来るんでしょ?」

同期の一人、金田理香が羨ましそうに話す。

「そんなコトないよ。金田さんはどこ?」

「あたし?あたしは官公庁対策本部とかいうとこ。お役所相手だね」

百合は実はコネ入社だった。
大学も英文科で短期留学などもしたので英語が出来ることには変わりはないが、三流大学の百合にさほど良い就職先はなく、百合を可愛がってくれている叔父が、役員をしているこの会社に入れてくれたのだ。
なんとなく、卑怯な手を使ったような気がして、なのに、その自分がみんなが羨ましがる花形の部署に配属されたため、百合は何となくバツが悪い気がしていた。

ふと、会場を見回すと、入口近くで、さきほど司会をしていた男性と高橋佐恵子が話していた。
少し険しい表情をしている。
百合の目線に気付いた理香が、さきほど百合が佐恵子に聞いたのと同じ質問をしてきた。

「あの子、キレイだね。さっき隣の席だったでしょ?……でも、内定式にいた?」

「あ、高橋さん、なんか不幸があったとかで欠席したんだって」

「へぇ、欠席していいもんなんだ。彼女、配属どこ?」

「総務だったかな。総務部庶務課?」

「ふぅん、なんか仕事バリバリしそうなのにね、一般職なんだ。」

「そうなの?」

「うん、一般職は最初、総務にしか行けないらしいよ。」

「詳しいね」

「仲がいいOGがいて結構教えてくれるんだ。庶務はショムニみたいなもんらしいよ」

「そうなの?」

「そ。余りモノが入れられるみたい」

「余りモノ……」

百合にしてみれば、たいした能力がない自分のほうがよっぽど余りモノなんじゃないかと、気持ちがブルーになりかけ、慌てて話題を変えた。

「同期の男子、いいのいた?」
「まぁね。でも、社内恋愛はあんまりおおっぴらにしないほうがいいらしいよ。お局様たちがうるさいらしい」

身内が会社にいる百合よりも、理香のほうがよっぽど社内事情に詳しいらしい。

百合は心の中で苦笑いした。
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