Leave a prove
友里はその様子を見た後、素早く俺の靴やソックスを拾い上げると、ベンチに走って戻り、何やら行動を開始した。

俺はその姿を視線で追うと、俺の座る位置を後輩をどかせ確保し、ベンチで試合を見ていた選手に指示を出していた。

友里も俺と同じ3年生なので、後輩達は素直に友里の指示に従い、ベンチを開け、俺のジャンバーを用意させたり、ストップウォッチや試合記録用のノートを手渡していた。

それを確認した後は、審判団の方に走って行き、何やら会話をしだす。

少し会話をした後、友里は審判団にお辞儀をした後、走ってどこかに行こうとしていた。

「どこ行くんだ友里?」

俺はベンチに到着した後、何気なく友里に声をかけた。友里は俺の声に振り向くと、ウィンクをしながら振り返り言ってきた。

「観客席に保健の先生が居るから、来てもらう許可を貰ったの。早く治療してもらった方が治りが早いでしょ?どうせ神崎君の事だから、試合が終わるまで病院に行ってくれる訳ないんだし…」

そう言うと、片手でヒラリと手を振り、走って行ってしまった。

「友里さんはやっぱ気がきくよなぁ…しかもキャプテンの性格も熟知しているし。キャプテンの女房みたいっすね」

俺の隣にいる後輩が、俺にちょっかいを出してくる。

「何で俺限定なんだよ。アイツは全員の性格を熟知しているさ…それに友里は直輝の彼女だっつんだよ」

生意気な後輩は、シメるに限る。俺は左足を冷やす手を止め、後輩の首を腕で絞めてやった。チョークスリーパーってやつだな。

後輩は俺の腕をタップしているが、俺は先ほどの友里の行動力について考えていた。

確かに友里は気がきく。誰よりも先に俺の下に駆け付けたし、俺が駄々をこねても、少しも怯まずに俺を言いくるめてきた。

綺麗で性格が良くて、気がきく女性。俺にはもったいなさ過ぎだな。

「キャプテン…死ぬ……」

俺の腕の中で三途の川を眺めていた後輩が、必死に俺に意思表示をしている。俺は急いで腕を解いた。

「悪い。考え事してた」

「冗談でしょキャプテン…首絞めている時に考え事とかシャレになんないっすよ」

確かにシャレにならんと思いながら俺は、素直に後輩に頭を下げた。
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