Leave a prove
骨折というワードはこれほどまでに重たい言葉だとは…。

ベンチに控えていた選手や友里、そして俺の表情が固まってしまう。そんな中、菊池先生は何となく予想をしていたのか、ベンチから俺に視線を送ることなく、試合に集中している。

だが保健の先生の言葉は届いている様で、ベンチから立ち上がると、表情を厳しいものにし、珍しく声を荒げながらフィールドで頑張っている選手に声を発した。

「慌てるなっ!ドリブルで中央をかき乱されても対して怖くはない!直輝!お前が指示を出して、フォーメーションの乱れを修正しろっ!」

動かざること山の如し。菊池先生が動くときはチームのピンチを意味する。

試合に集中している俺らの選手も、この声にはどうしても反応してしまう。それぐらいこの人の怒声はよく通るのだ。

菊池先生の声が届いたのか、直輝はフォーメーションの乱れを修正し出した。キーパーは時に現場監督の様な立場になる事が多い。

それは一番後ろからフィールドを冷静に観察する事が出来るのが一番の要因でもある。そして直輝という男は、菊池先生と同様に声が良く通る男であった。

直輝は菊池先生の指示を聞いて、本腰を入れて周りに指示を出し始めた。

マークの位置やスペースの有無。ボールが外に出たり、ファールで中断になった時などを利用して、的確に耳に入るように選手に指示を出し始めた。

そんな中、保健の先生の話は続いている。

「もし脱臼骨折している状態だと、出来るだけ早く治療を済ます必要があるわ。変に間接に癖がついちゃうと、怪我が一生ついて回ることになるの。だから早く病院に向かいなさい…」

そう言うと保健の先生は、膝まづいている状態から立ち上がる。

「もし病院に向かうのなら私が車で送ってあげる。近くに知り合いの病院があるし、すぐに見てもらえるように手配してあげるわ」

もし保健の先生が言うように、骨折しているとしたら俺の脚は…。

全国はどうなるんだ。

「早く行った方が良いわ神崎君。病院に行こう?」

友里が俺の肩を掴みながら、俺に問いかけてくる。

俺の脚がもし…骨折していたら全国は。

絶対に無理だ。後一ヶ月しかないんだから。

「神崎君っ!」
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