イジワルな恋人


【奈緒SIDE】


「今日の終業後の空き時間にバトン練習があるんだって」


教室に入ると梓がそう伝えてきた。


「あ、そうなんだ。空き時間ならバイト間に合うからいいや。

50分もあるし、それなら放課後までかからないよね」


練習時間にほっとして笑顔を返す。

教室の中はもうすっかり体育祭ムード一色で、ロッカーの上には応援用の青いボンボンが溢れ返ってる。

鮮やかな青色が、体育祭が高校初めての行事になるあたし達のテンションを上げていた。


「……ねぇ、奈緒。最近頑張りすぎてない? 無理しないでよ?」


今まで何も言わなかった梓の言葉に、少し驚く。

事件の事を含めて、「大丈夫?」って聞いてくれてる梓の気持ちが、真剣な表情から伝わってきて……。

笑顔を作ったつもりが、苦笑いになる。



「そうだね……。気をつけるよ。ありがと」


心配そうだった梓も、あたしの返事に安心したように笑みをこぼす。


「まぁあたしに心配されなくても桜木先輩がいるから大丈夫か。いいなぁ、ラブラブ彼氏がいて」


心配していたさっきまでの優しい顔とは違い、ニヤニヤと笑う梓があたしをからかい出す。


「でもさ、奈緒と桜木先輩って合うの? 

すごい遊び人で女とっかえひっかえなんでしょ? 奈緒騙されたりしてない?」


「とっかえひっかえって……前は確かにそうだったかもしれないけど。

今は優しいし……。梓が思ってるような人じゃないよ」


思わずムキになって言ったあたしに、梓が笑いだす。


「はいはい、ごめんね。やっぱりラブラブだ」


あたしは、笑う梓に口を押さえながら熱のこもった顔を隠した。



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