イジワルな恋人


「なんで謝るの? 水谷、俺はあの時の事は何も怒ってないよ。水谷は何も悪くない。

俺が怒る理由も、水谷が謝る理由も、一つもないんだ。

……支えてあげたかったけど、多分あのまま傍にいても、俺には何もできなかったと思うから。

だから……、あの時、俺に言ったからってそれを守る義務なんてないんだ。

……水谷が幸せなら、それでいいんだ」


中澤の言葉に、二人の関係を理解した。

奈緒が一日だけ付き合った“彼氏”―――……。


それが……。


「……桜木、今回は見逃すよ。そのかわり……」

「……心配しなくても大事にしますよ。……先輩」


俺の挑発を込めた言葉に、中澤は少し苦笑いしてその場を離れた。

……奈緒は、黙ってうつむいていた。


奈緒の落とした二本のペットボトルを拾い上げる。

その間も奈緒はうつむいたまま、思いつめた表情で地面を見つめていた。


俺が見てきた中で、一番悲しくつらそうな顔。



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