イジワルな恋人


『支えてあげたかった』

『あの時』


奈緒と中澤、二人の間に俺の知らない過去がある。


そんな事は当たり前のハズなのに……。

中澤の言葉がやけに苛立ちを誘う。


奈緒のつらい時に、近くにいられた中澤に。

奈緒の過去を知っている中澤に……嫉妬してた。


……俺が聞きたかったことを、多分あいつは知っている。

今聞けば……、奈緒は俺に話すかな。

俺が聞けば、教えて欲しいって言えば、きっと話すだろうな……。


今みたいに悲しい表情を浮かべながら。

……―――やめた。



一人で気持ちに区切りをつけて、立ったまま固まっている奈緒に視線を移した。

そして、わざと奈緒の耳の近くで声をかける。


「……おまえ、耳弱いんだな」

「ひゃっ……」


想像通りの反応が返ってきて、おかしくなって笑う。


「もー……」


耳を隠した奈緒が、膨れながら俺を見る。


俺と奈緒の視線が交わって……不思議な空気が流れる。


緩い風が二人の髪を揺らしていく。

交わされる真剣な視線に、先に目を逸らしたのは俺だった。



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