イジワルな恋人
【亮SIDE】
奈緒の走り去った中庭。
自販機に身体を預けていた。
奈緒の、涙の理由を考えていた。
……過去を思い出したのか、それとも……。
中澤に会ったから……?
二本のペットボトルが、俺の熱で生暖かくなって揺れる。
茶色く透ける液体に、俺は視線を落として表情を歪めた。
……いくらカッコつけた事ばっか言ったって、心ん中はすっげぇカッコ悪ぃし。
賀川に嫉妬して、中澤に嫉妬して……。
あいつが何隠してんだか知らねぇけど……。
あいつが話してくれない限り、俺に心を開いてくれない限り。
あいつが……、俺を好きにならない限り……。
多分、俺の不安はなくなんねぇんだろうな……。
頭に、さっきの奈緒の顔が浮かぶ。
赤くなって固まってる姿が。
少し震えた肩が、涙を浮かべながらもうつむかせた視線が……、
俺を好きだって言っているように見えた。
……でも。
『誰も好きにならない』
奈緒の言葉が頭に響く。
女心ってホントわかんねぇ。
……知りたいと思ったのも初めてだけど。
空を仰いでため息をもらす。
自販機の熱が、俺の身体に浸透する。