イジワルな恋人


【奈緒SIDE】


中庭から少し離れたところで、誰もいない事を確認してから立ち止まった。

まだ……、抱き締められた時の感触が身体中に残ってる。


抱き締められた腕の強さも。深いキスも……。



亮の残り香が、胸を痛いくらいに締め付ける。


……亮を、傷つけた。

告白してくれて……、

優しくしてくれたのに……。


大切にしてくれたのに―――……っ。


あたしは先輩に『違う』って言った。


亮との関係を……、否定した。

亮の優しさを、否定した。


……何も言わなかったけど、きっと傷ついてる。

傷付かないハズない。


だって……、本当は優しいから。


偉そうな事ばっかり言うくせに、本当の本当は誰よりも優しいから……。

そんな亮を、あたしが―――……。



……あたし、なにやってるんだろう。


『誰も好きにならない』

もう……誰も、傷つけたくなかった。


だからそう決めたのに……っ。

亮を、……好きな人を、傷つけた。




一番傷つけたくなかった人を……、


あたしが、傷つけたんだ……。


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