イジワルな恋人
【第十章】 時間
【奈緒SIDE】
いつの間にか、あたしは亮の腕の中にいた。
泣く事に精一杯で……、いつ抱き締められたのかも気付かなかった。
……さっきまで泣いてたのが嘘みたいに、心の中が穏やかだった。
「……亮?」
亮の腕の中から、遠慮がちに声をかける。
その声は、自分でも驚くほどに掠れていた。
気付いた亮が腕を緩めて、あたしのおでこに自分のおでこをくっつけた。
泣いていたせいで、あたしの身体はすっかり熱を持っていて。
亮の冷たいおでこが気持ちよかった。
「……落ちついた?」
亮が優しく話しかける。
「うん……あの、亮?」
「何?」
いつもより優しい亮の口調に少し戸惑いながら口を開く。
「……近くない?」
恥ずかしくなりながら言うのを見て、亮が意地悪に笑う。
「……別にいいだろ? キスもした仲じゃん。
……もう一回する?」
亮がニっと口の端を上げて笑み作って、顔を近づける。