イジワルな恋人
「……、……」
……喉の辺りが痛い。
出てこようとする言葉と涙が……、
喉に詰まって、胸を苦しめる。
「……ごめんね」
しばらくして、先輩が腕を緩めてあたしを離した。
離れた先輩の顔を見つめると、先輩は困ったように微笑んだ。
「ごめん。……困らせるつもりなんてなかったんだ。
気持ちを伝えるつもりも……。
ただ、体育祭の時、桜木と一緒にいる水谷を見たら……自分が止まらなくなった。
……困らせてごめん。
……ただ、俺の気持ちだけ知っておいて欲しい」
そう言った先輩はあたしの頭に軽く触れて、「帰るよ」と、立ち上がった。
あたしは何も言わずに……、言えずに、先輩の後ろを歩いた。
あの事件が起きるまで、毎日のように見つめていた背中を見ながら歩いた。
先輩が帰った後も、玄関に立ち尽くしていた。