イジワルな恋人


珍しく午前の授業を全部出席してから屋上に行くと、すでに奈緒の姿があった。

俺を待つ奈緒の後ろ姿を見て……、瞬間、中澤の顔が頭に浮かぶ。


けど、振り向いた奈緒の笑顔を見て不安が飛んでいった。


「亮」


笑いながら呼びかける奈緒の目は、真っ直ぐに俺を見ていた。

そんな姿に、小さく安堵のため息をもらす。

安心からこぼれた笑みを隠しながら、奈緒の隣に座る。


「珍しいね、亮が屋上にいないなんて」

「……まぁな。授業でてたから」


俺から出た言葉に、奈緒が驚いた顔をした後笑い出す。


「……なんか亮が授業受けてる姿想像できない」


朝とは違う明るさに、少し疑問を持ちながらも俺も笑みをこぼした。


奈緒の笑顔が、当たり前に自分に向けられることが俺を苦しいほどに締め付ける。



……もし、こいつが中澤を好きだとしても。

俺に笑いかけてくれるんなら……、それだけでいい。


少しでも一緒にいたいって思ってくれんなら、それでいい。



……―――例え、奈緒が俺が好きじゃなくても。




今は、ただ傍にいたい。

奈緒の傍に。


< 238 / 459 >

この作品をシェア

pagetop