イジワルな恋人
【第十三章】 バイト
【奈緒SIDE】
「あっ! バイト!!」
思い出して、慌てて立ち上がる。
今日は打ち上げだからっていつもより遅い時間からにしてもらったけど……
それでも、間に合わないかもっ!
両脇の亮と梓の視線が、あたしの青くなった顔に向けられる。
「ごめんっ、帰るね」
顔の前で手を合わせて、走って食堂を出た。
ケータイを開くと、デジタル時計が、16時26分を示していた。
バイトは16時40分から……ダメだ、間に合わない。
一応電話だけ入れとかなくちゃ……。
今まで遅刻したことがないだけに、少し落ち込みながらバイト先に遅れる連絡をした。
幸い、快く了解してくれた店長にほっとしながら電話を切る。
ケータイを鞄に入れた途端、横から鞄を取り上げられた。
「あ……」
驚いて隣を見ると、亮があたしの鞄を持っていて……。
「何やってんだよ。行くぞ」
「え……あ、うん」
少し戸惑いながら、亮の背中に向かって走り出す。
「亮、別に送らなくても大丈夫だから、打ち上げ出てていいよ?」
横顔を見上げながら言うと、亮は一瞬あたしに視線を落として。目を逸らしてからまたスタスタ歩き出す。
「……おまえがいなきゃ、あそこにいる意味なんかねぇし」
その言葉に顔を赤くしていると、亮に手をとられる。
前を向いたまま振り返らない亮に、こっそり嬉しくて笑みをこぼした。