イジワルな恋人
北村さんの運転は、とてもスムーズで振動も少なくて……
運転したことのないあたしでも尊敬するほど。
本当にすごいと思う。
……だけど今だけは状況が違う。
尊敬なんかしてる余裕なんてない。
「北村さん、お願い! 急いでくださいっ!」
「はい。わかっておりますので安心してください」
身を乗り出したあたしは、北村さんの優しい言葉に、座席に座り直した。
……半分諦めて。
「おまえんちって、そんな大変なのか?」
亮の言葉に……、少し黙って、小さく笑顔を作ってから首を振った。
「……ううん。本当はあたしがバイトなんかしなくても大丈夫なんだ。
ほら……、三人の保険金が全部入ったし……。
なんとなくね、もう責任感とかでしてる訳じゃないんだけど、していないと落ち着かないっていうか……」
三人分の保険金と遺産、それは想像以上にたくさんあって。
それはあたしの生活費、学費くらいならまったく問題なかった。
大学までいっても、大丈夫な額。
「最初に会った時のキャバクラ裏の喫茶店覚えてる?
あそこが少し前に閉店しちゃったから、今はネットカフェだけだし、無理してるわけじゃないから……」
今はネットカフェのバイトを週に二回程度しか入れていない。
以前の忙しさからすれば嘘みたいに自分の時間ができた。
家にいる時間が増えたあたしを見て、おばあちゃんもほっとしてるみたいだった。
「……俺もしてみるかな」
あまりに唐突で意外な言葉に、耳を疑って亮を振り向く。
「……えっと、……冗談?」
少し笑いながら聞くと、亮は真面目な顔をして答える。