イジワルな恋人
「美沙は?」
佐伯さんのいない穏やかな店内に、男の人の声が響いた。
茶色の髪に、某私立高校のブレザーの制服をきた男の人が、店内に入って来るなり、受付の香奈ちゃんに詰め寄った。
「……今日はお休みです」
香奈ちゃんが少しおどおどしながら答える。
男の大声を不思議に思ったあたしは、雑誌棚の後ろから2人の様子を伺っていた。
……今出て行っても、ややこしくさせちゃうだけかな。
このまま帰ってくれれば、何の問題ないし……。
でもそんな淡い期待はすぐに消える。
「またまたぁ。店でかくまってたりしてない?
俺さぁ、前ここ来た時あいつに逆ナンされてさぁ。それなのに、昨日いきなり他に男ができたとか言って、それから連絡とれねぇの。
俺、可哀想じゃねぇ?」
男が受付のカウンターに両肘をついて、身を乗り出しながら話す。
「……はぁ」
小さく後ずさりした香奈ちゃんの顔はあきらかに怖がっていて……そんな様子に気付いて、手をきつく握り締める。
「だからぁ、いるんだったらさっさと呼べよっ!!」
急に男が怒鳴ったのを聞いて、香奈ちゃんはもちろん、隠れていたあたしも身体をすくませた。
そして、飛び出しそうになった心臓を落ち着かせてから……
カウンターに向かって歩き出した。
受付に入って香奈ちゃんを見ると、目に涙がたまっているのがわかった。